★ 郁子の元気が出る音楽の広場 ★
Q Magazine Vol. 51 2007年2月号より
| 「精神性」という言葉がその時頭に浮かんだ。彼にはどんな野獣どもも自由に操り、自分の世界に連れて行く事が出来る。それは彼の「精神性」によるものなのだと。 それは去年の春の出来事だった。既に行って来た(定期公演は大体3日間ほど同じプログラムで演奏される)友人のダンナの「絶対聞き逃すべきではない」という言葉に押されて慌ててチケットを購入、シカゴシンフォニー(以下CSO)の演奏会に出掛けた。 プログラムはドビュッシーの「海」、ウエーベルンの「パッサカリア」、そしてベートーベンの7番。指揮はBernard Haitink だった。 初めて聞くハイティンク。彼の魔法の指で、プレイヤー一人一人が道具になって「ハイティンクの音楽」に引き込まれていくのが見える。木管も金管も、弦楽器の一番後ろの人さえも(普段つまらなそうだが・・・)演奏する喜びで溢れていた。 指揮者と演奏者、そして聴衆までもが一つになって音楽を作り出す至福の時間。その時間を共有できた事に心から感謝した。その時の演奏は「歴史の1ページに居合わせている!」とさえ思わせるものだった。 押さえきれない興奮を抱えて帰る車の中で、何がこの小さな指揮者にこれほどまでの統率力を持たせるのか、一緒に行った友人と考えた。その時出て来た言葉が「精神性」という、あまり使う事のない言葉だったのである。 音楽における精神性とはなにか。それはもしかしたら「音」を通して人間の奥深くに切り込む力の事かもしれない。小さくて上品なこの指揮者からは、自由でほとばしるような楽しさは感じない。ニヤッと笑わせてくれる事もない。しかし、 もっと足元から毅然とした揺るぎのない力で渦巻きに巻き込まれるような、とんでもない精神性を感じるのである。これは真面目に対峙するしかないと襟を正させられるような、そんな音楽なのだ。 ハイティンクはアムステルダム生まれのオランダ人で、指揮者として50年以上のキャリアを持つ今年78才のおじいちゃんである。2006年からは正式にCSOの主席指揮者になり、10月にマーラーの3番を振ってまた素晴らしい演奏を聴かせてくれた。 これはライブレコーディングとして発売される事になっている。主席客演指揮者だったピエール・ブーレーズ(この人もまた80才を超えた凄いおじいちゃん)は名誉指揮者になり、相変わらず音楽監督のポストは留守のままだが、最近のCSO、とってもいいです。 金管セクションは相変わらず凄い。木管も、破廉恥な音を出すクラリネット達も私は許す。ハイティンクは5月にまた振りに来るので時間のある人は是非是非聞きに行って下さい。一緒に「歴史的瞬間」に立ち会いましょう。ホワイトソックスやベアーズだけじゃないよ。シカゴで自慢できるのは・・・。 因みにハイティンクは今4度目の奥さんとスイスで暮らしているらしい。そっか・・・魔法の指は指揮だけじゃなかったのね。 |