郁子.Armandiのシカゴ便り


★ スズキメソード ★

シカゴ生活情報誌Qマガジン  Vol. 33 より


アメリカに来て初めて「スズキメソード」というものを知った、という日本人は割合多いと思う。日本では松本の山の中でこそこそやっていて音楽の表舞台になかなか出てこないスズキメソード(才能教育とも言う)だが、1960年代に鈴木慎一が育てたバイオリンの子供達がアメリカ公演を行って大きな話題を振りまき、その後アカデミックな分野で研究されアメリカの音楽教育に上手く取り入れられている。日本では音楽関係者でさえ余り知らないこのメソードだが、こちらアメリカではその辺を歩いているおじさんだって知っている。

 

「スズキメソード」の画期的なことは、今まで譜面を読むことから教えられていた音楽教育に、「聞き覚え」、即ち人の真似をすることから始めたことである。鈴木慎一が昔ドイツに留学したとき、「母国語を覚える時に落ちこぼれはいない!」ということに大きな感動を覚え、言葉を習得するように音楽も勉強できたら落ちこぼれは絶対出来ないだろうという信念の下に彼は教育を行っていった。一見当たり前のように思えるこのことを改めて凄いと考えた鈴木慎一はさすがに天才だったと思う。

 

赤ちゃんは産まれたときから、あるいはそれ以前からその母国語を喋る人に囲まれて色々な事を話しかけられて育つ。毎日毎日その繰り返しで、まず「マンマ」や「ママ」等という簡単な言葉から喋るようになる。そして次第にボキャブラリーが増えて行くわけだが、覚えた言葉を繰り返し繰り返し使っていく過程がその言葉の概念をよりハッキリさせる為にまた大切なのである。彼はここに重点を置いた。そこが従来の音楽教育とは大きな違いなのである。「あなたはこの曲はもう上手だから今日で終わり。次はこの新しい曲を見てきなさいね」と教えるのでなく、「この曲はうんと上手になったから、しっかり暗譜していつでも弾けるようにしてね。じゃあ次の曲」と、どんどんレパートリーを増やすように勉強させるのである。字の読み書きがその後に来るのと同じように、読譜もある程度の基礎が出来てから教える。(日本のスズキメソードは読譜させるのが遅かったので、大人になっても譜面が読めないという事態が起こり、それが後々まで悪いイメージとなったようだ。また聞き覚えで育てると短期間ですぐ覚えてしまうので、読譜は相当努力させないと身に付かない)

 

誰もが日本で育つと日本語を喋り、英語圏で育つと英語を喋れるのと同じように音楽も修得することが出来るのである。しかも一人の落ちこぼれもなしに・#12290;しかし現実はなかなか難しい。

 

最近井上ひさしの文章読本を読んだ。良い文章を書くためには良い文章をたくさん読め、その一言に尽きると書いてあった。どんな分野においてもまず「模倣」から始まるのだと改めて思った。「人真似はダメ」と頭ごなしにいう人がいるけど、たくさんの人の真似をしてたくさんの引き出しを作っていく中で、自分なりのスタイルというのは生まれるのだろうと思う。

 

今回のお勧めの一曲

 

Peter Ilyich Tcaikovsky

Symphony No.1 G minor, Op.13 展inter Reveries・/p>

Symphony No.2 M minor, Op.17 鏑ittle Russian・/p>

チャイコフスキー

交響曲第1番「冬の日の幻想」

交響曲第2番「小ロシア」(ウクライナのことを指す)

 

今回は特に「明日も生きるぞ!」と思える一枚を紹介したかったが、いざそう考えると難しい。9月11日の事件の後、私自身はクラシック音楽によってうんと励まされたけれど、果たして普段あまり音楽と関わりのない普通の人がどの程度そういうものによって慰められるのか、よくわからない。音楽の力は偉大だけれど、同時に如何に無力であるかと言うことも痛いほど知っている。

 

アメリカで暮らし一つの歴史を目の辺りに見ている外人の我々は、ミサイルをぶち込んで首謀者を殺せば気が済むのかと思わせるような単純なアメリカに疑問を持つ人も多いと思う。最近しょっちゅう耳にする「Patriotic」と言う言葉の中に少し怖い響きを感じるのは私だけでは無いと思う。

 

チャイコフスキーの交響曲第1番と第2番は、特に国民的色彩の強い曲だとされている。ロシアやウクライナの民謡をモチーフに書かれたこの曲を聴いていると、行ったこともないロシアの壮大な大地、そしてそこに静かに暮らす人々のことが目に浮かぶ。「悲壮」を含む後期の3曲がよく演奏されるが、私は最初の2曲が好きです。彼が如何にロシアの大地を愛したかがわかるような曲だと思う。また「愛国的」とはどういうことなのかを教えてくれるような気がする。自分の国を愛することは素晴らしい。同時に自分の知らない国のこと、その国に住む人のことも愛したいと思う。音楽を通してそうすることが出来ます。だから音楽は素晴らしい。

 

12月になるとあちこちで彼の「くるみ割り人形」が演奏される。アメリカにいる間に是非一度このバレーを見に行って下さい(生のオーケストラを使っている割合が大きいから)。バレーも音楽も素晴らしい。クリスマスにふさわしい可愛いお話です。

 

私は残念ながら中東に関する音楽をほとんど知りません。知っている人がいたら是非教えて下さい。