郁子.Armandiのシカゴ便り


★ 予習のススメ ★

シカゴ生活情報誌Qマガジン  Vol. 32 より


「クラシック音楽は難しい」と思っている人はたくさんいるかもしれない。確かに器楽演奏には歌詞もないし、感情を共有しにくい面がある。せっかく高いチケットを買ってコンサートに足を運んだものの、水泳の後の退屈な授業の時のように、気持ちよく演奏の間中眠りこけていたということも多くの人が経験済みだと思う(白状すると私も何度もあります・#12290;)ではどんな時に寝ないでしっかり聞くことができるのか。それは「曲を知っている」ことに尽きる。

 

大昔、イーヴォ・ポゴレリッチ(Ivo Pogorelich)というピアニストが来日したので行くことにした。丁度その頃彼の演奏するショパンの協奏曲2番のCDを誰かが買って、特に2楽章の美しさにみんな感激したという内輪で話題の人だったからである。仲間や生徒なども誘い10人近い人数で出かけた。

 

演奏曲目はリストのソナタとブラームスの2つのラプソディだった。(ブラームスの間奏曲も弾いたような気もする。)どちらも全然知らない曲だったのでその曲のCDを購入し、みんなに「予習テープ」と称して強引に聞くように進めた。特にリストのソナタロ短調はやたら長く、耳慣れない者にとっては「熟睡間違いなし」の曲だ。

 

仕事に出かける行き帰りの車の中で、コンサート前2週間ほどは必ずそのテープをかけることにした。集中して聞くわけではないけど、何度も何度も繰り返して聞いた。

 

ポゴレリッチが男前であることも原因するかもしれないが、その演奏会は素晴らしかった。まるでクレッシェンドしているかのように際立って聞こえてくる美しいメロディ、ため息が出るようなピアニッシモ。予習テープとはまた違った超スローなテンポで弾き、その違いも楽しむことができた。一緒に行ったメンバーも、ちゃんと予習した人は(子供でも)無事眠らず、彼の味わい深い演奏を楽しみ、何故彼が「異端児」と言われるのかさえも理解できたようだった。

 

それ以来、力の入ったコンサート(私がこう呼ぶ場合、経済的な理由の方が芸術的理由よりも勝っているかもしれない。ああ・#36007;乏人の浅ましさ)に行く場合、時間の許す限り知らない曲は予習するようになった。どこか知らない土地に出掛けるとき、そこの歴史的背景や人々の生活を知っていたせいで尚更楽しめ、より深く記憶に残るのと同じ事だと思う。(だから現地で手に取る解説書も無理して英語のを読まないで、日本語版を頼んで深く理解しよう!)知識によって感覚さえも変えることができるのが人間の凄いところだ。

 

これから秋を迎え、音楽会に誘われる機会も増えると思う。皆さん、是非一度だまされたと思って予習をしてコンサートに出かけて下さい。ただ繰り返し繰り返し、ある一定期間鳴らし続けるだけでいいのです。どうしても行けなくなってチケットが無駄になりそうな時は私に譲って下さーい!

 

今回のお勧めの一曲

 

モーツアルト

Mozart

ヴァイオリンとビオラのための協奏交響曲KV424

Sinfonia Concertante,KV364

 

前回「音楽の父」J.Sバッハをご紹介したので、やっぱりその後は偉大な天才、モーツアルトの作品を紹介したいと思う。彼は音楽家の父親のもとで、6歳くらいから演奏旅行にヨーロッパ中を駆け回った「神童」で、1791年に35歳という若さで短い人生を終える。「音楽家」と呼ばれるほとんどが宮廷や教会に雇われて収入を得ていたその時代、モーツアルトは結果的に依頼があれば演奏したり作品を提供したりするという「フリーランス」の道を選んだ。そして例に漏れず、フリーランスの宿命「貧乏」と一生戦った人である。(日銭は結構稼いでいるはずなのに貧乏に喘いでいたというのも水商売に携わる人の典型だ)

 

この曲はそんなモーツアルトの波瀾万丈な人生の中で、宮廷のオルガニストとして安定した生活(本人は不満だらけだったようだが)を送った23歳の時に書かれたものである。

 

協奏曲とはある一つの楽器をソリストに迎えて、オーケストラをバックに演奏される作品を言う。交響曲とはオーケストラで演奏されるある一定の形式を持った作品のことだ。では協奏交響曲とは!?旅から旅でヨーロッパ中の最新情報を持っていたモーツアルトがいち早くつかんだその時代の「クール」な形式で、複数のソリストを迎えて演奏されるオーケストラ曲を指す。

 

ワクワクするような前奏からユニゾン(同じ旋律を奏でる)で始まる美しい1楽章。甘く悲しい2楽章。その悲しさを忘れさせてくれる元気の出る3楽章。私はデービットとイーゴリー・オイストラフ親子の演奏を聞いてこの曲に親しんだけど、特にお勧め演奏家は今回なし。モーツアルトはどんな演奏家の演奏でもあなたを天国に連れていってくれる。ピアノやバイオリンの協奏曲、またクラリネット協奏曲も大変美しいので聴いてみて下さい。