郁子.Armandiのシカゴ便り


★ 邦楽器を演奏出来ない日本人 ★

シカゴ生活情報誌Qマガジン  Vol.31より


 

 最近作曲家の池辺晋一郎さんのコラムを読む機会があった。読売新聞の英語版に掲載されたもので、そのコラムは、明治時代から行われた「西洋音楽一辺倒」の音楽教育のおかげで、日本人は如何に日本の音楽について無知であるかということが書かれていた。作曲家が集まる機会にアジアの他の民族が母国の楽器で母国の音楽を突然演奏する場に居合わせる事が度々あるが、自分たち日本人はほとんどの場合誰も日本の楽器を演奏することができない、ということを嘆いている。

 

実際我々は何曲くらい自分の生まれ育った地域の民謡を歌えるだろうか。その歌を宴会の席で歌うことがあるだろうか。因みに本来歌の好きだった日本人は明治以後歌わなくなったと言われている。それは日常にある音楽(民謡など)と学校で習う音楽(西洋の音階で作られた音楽)があまりにかけ離れたもので、更に日常の音楽は「下品」とされ堂々と歌えなくなり、学校で習うものには親しみが持てず普段歌うには恥ずかしい物だったのであろう。しかし昭和の終わり頃から日本人は急激に誰もが歌を歌うことになるのである。「カラオケ」の出現によって・#12290;中学校の音楽の先生に「あんたは音痴」とレッテルを貼られすっかり音楽が嫌いになったけど、飲んだ帰りちょっと寄ったカラオケバーで自分の意外な才能を見つけた経験を持つ人は結構たくさんいると思う。もちろんみんなが歌う歌は「歌謡曲」で日本古来の民謡や邦楽ではないわけだが・#12290;

 

大阪の殺風景なベッドタウンで生まれ育った私の生活にも邦楽などまるでなかった。民謡に接するのはせいぜい盆踊りの時の河内音頭くらいで、ましてやお琴や尺八など見る機会もなく大人になった。その代わりカワイ音楽教室が近くにあり、ピアノの先生がいて、吹奏楽部でフルートをやり始め、大学では音楽を専攻し教員免許も取った私は「音楽家」であったが、知っている音楽は西洋音楽、それもクラシックのみだった。 

 

アメリカに来てから年齢的なこともあってか日本の音楽に興味を持ち、篠笛や尺八の勉強を始めた。太鼓のグループと一緒に演奏する機会も多い。西洋音楽とは全く違う感覚で演奏することを要求されるが、西洋音楽のみを長くやって来た私にはなかなか難しい。しかしクラシックやジャズを演奏するときとは違う喜びが体から溢れるのを感じる。メロディが心にピッタリ寄り添う。

 

海外にいるからこそ「日本」が見えることがあると思う。日本の良さをしみじみと感じることもあるだろう。邦楽は素晴らしい。この素晴らしい日本の音楽を「お正月のバックミュージック」にしておくのは余りにも惜しい。一曲くらいあなたの生まれた場所の民謡を歌えるようになりたいと思いませんか?宴会の席でみんなに手拍子をさせて朗々と歌ってみたいとは思いませんか?

 

今度日本に帰ることがあれば、是非是非あなたの地域の民謡を覚えて来て下さい。そしてレパートリーがなかなか増えないで困っている私に教えて下さい。ホントです。私は本気です。

 

さて、ここで今回のお勧めの一曲(うーん・#12371;こで邦楽を紹介できない自分が情けない)。

無伴奏チェロ組曲第6番 二長調

Suite No. 6 D major BWV 1012

(From The Six Cello Suites)

 

初回はやはり「音楽の父」と言われるJ.S.Bachの作品を紹介したいと思う。1685年に生まれ65歳で死ぬまで、オペラ以外のあらゆる種類の音楽に精力的に挑戦し、50年の創作活動で多くの素晴らしい作品を残したバッハ。はじめの結婚で7人、2回目で13人の子供を作ったことからもその精力的な姿勢は伺われるが、どうしてもそこの不細工な娘と結婚したくなかった為に安定した教会での仕事を断るなど人間的なエピソードも多い。ライプチッヒのトーマス教会の前にあるバッハの像は、服がちょっと窮屈気味でボタンがおなかで引っ張られており一つは取れかかっていた。きっと人間くさい、愛すべき人だったんだろうと思う。

 

6曲ある無伴奏チェロ組曲の中では1番が有名だが、私の好きなのはこの6番。特に5楽章のガボットを聞くと本当に励まされる。明日も頑張って生きようと思う。ヨーヨー・マでもカザルスでもロストロホービッチでも素晴らしいが、私のお気に入りはミッシャ・マイスキー(Mischa Maisky)。彼はアメリカではあまり知られていないが、ラトビア出身で色々苦労して演奏家になったせいか、演奏に味わいとしつこさがある。だからWhite Breadが多いアメリカのクラシックフアンには受けないのかもしれない。

 

この曲が気に入ったら同じJ.S.Bachの無伴奏バイオリンの為のソナタとパルティータも聞いてみて下さい。