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『語りあう仲間たち 20号 「あんどんがらすのずいだー」』 寄稿 : 佐々木 行(ささき すすむ)さん
ウイーン中心街
一.一九五ニ年~五三年
昭和二十七年~八年、私は中学三年生だった。社会科の先生が、授業中に突然ある映画の話をしてくれた。 「ー-一人の女性が、お参りをしていたお墓から離れて、墓地の並木道を歩き出した。
道の途中に、男が一人、自動車に寄り掛かって立っていた。女は男を無視して通り過ぎた。男が女の後からついて歩いて行く。
二人は並んだ。女が男の腕に手をとおした。どちらも無言のまま歩き続ける。音楽が鳴りだした。”だだだだ、だだだだ、だだだだ、だーんだん” ((あんどんがらすのずいだー)) だー-」
二.その後の某年某月X複数回
社会人になってから、その映画を何回か観た。((第三の男))だった。舞台は第二次世界大戦後、戦勝国による占領下のオーストリア、ウイーン。複雑な政治情勢を背景に、偽ペニシリン薬(ペニシリンは当時の結核の特効薬)の密輸組織と、それを追う警察側。
その中で、密売主犯のオーソン・ウェルズと舞台女アリダ・ヴァりの恋愛がからむ、スリリングなサスペンス作品であった。話の中身は省略するとして、
ウイーン中央墓地の静寂さと、並木道での男女の別れの哀感など、いくつもの素晴らしい場面が記憶に残っている。
三.一九九八年
ウイーンを訪れる時がやって来た。三年前の九五年から早稲田大学のオープンカレッジに通っていた。その受講科目の中に「西洋美術史」があり、担当講師(当時ある美術大学の教授)からヨーロッパの美術館巡りをする旅行の案内を受けた。先生が教えている
学生たちの卒業旅行で、十日間(往復のフライトを含む)でプラハ~ウイーン~ザルツブルク~ミュンヘン~パリを巡るというもの。私はパリ以外行ったことがないため、惹かれる点が多く、ツアーに参加した。
四.ウイーンでは
旅程中のウイーン以外の箇所のことは割愛して、ウイーン滞在は正味二日間。
団体行動の部は一日半でリングシュトラーセ、ベルヴェーデーレ宮殿、美術史美術館、
聖シュテファン寺院などを廻った。そして、二日目の午後遅く、単独行動に入った。まず市外電車
に乗り団体行動で抜けた所を何か所か補いふむふむそうかと納得。
五.中央墓地で
午後四時過ぎ、日没が近ずいた頃合いに中央墓地に着いた。第一墓地から第二墓地へと著名な人々の眠っているお墓を確認し、最後にあの並木道に足を踏み入れた。映画の中のアリダ・ヴァりとジョセフ・コットンの姿を思い浮かべながら薄暮の並木道をゆっくりと
歩いていると、聞こえてきた。 ”タタタタ、タタタタ、タタタタ、ターンタン” アントン・カラスのツイーターの響き、「第三の男」のメロディーだった。四十数年ぶりに現れた幻の音楽に違いなかった。
了
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